研究室選びのためのゲノム生命機能研情報

 

3年生のために19年度の卒論と修論を解説してみました。19年度は星田さんがドイツから帰国し,ポスドクでスーダンのバビカーが来て,研究補佐員で池田君,事務補佐員で美澄さんが参加しました。イランから半年間のドクター留学でモーセン,中国からボウさん,タイからチャリダが研究で一月程度滞在しました。来年度はM1が9人となり,さらに活気ある研究室となるはず。是非,この研究室を希望して欲しいと願っています。

 

平成19年度の卒論と修論の解説

【卒業論文】

「耐熱性酵母Kluyveromyces marxianusの温度感受性株の取得と解析」

 当初は耐熱性酵母のエタノール発酵や栄養源と増殖の研究をする計画で長い間進まない実験を繰り返していたように思う。なかなか進まないのでいくつかの新しいテーマのアイデアを伝えてどうなるかと見守っていたら知らぬ間に耐熱性酵母の温度感受性変異をなんと500株以上も取得していた。温度感受性変異からハートウェルやナースのノーベル賞の細胞周期研究が始まったのだが,こんなに簡単に大量の温度感受性が取れるとは驚きである。恐るべし,耐熱性酵母。でも500株はこれからが大変!遅刻してるとできないよ。

 

「耐熱性酵母Kluyveromyces marxianusの形質転換系の開発」

 素晴らしく予定通り,いや予定以上に進んだ研究。当初70株ほどの栄養要求性変異を取得していて,それらの同定を行っていったが,大変きれいな結果を与えてくれた。古い基本的なGeneticsをこの研究室で一からやれたことに大変満足。実は,この同定手法が新しいのだが,結果は次の学会に出そう。新しいテーマをもう決めたので次にどんどん進めるつもり。次はゲノム。

 

「異種プロモーターを利用したKluyveromyces marxianusの高発現系の開発」

 当初のテーマが全然うまく行かず大幅にテーマを変更した。当初のテーマはなぜか再現性が取れず,未だに苦労している。しかし,テーマ変更後の展開は素晴らしい。本当に予想外とはこのことだが,詳細はまだ秘密。いろんな変なアイデアをいつも信じてくれて意欲的に取り組んでくれるのでありがたい。いつの間にかいろんな仕事をやっている。不器用さはそれほど問題じゃない。必ずもっと大きな発展がこの先にできると思う。

 

「耐熱性酵母Kluyveromyces marxianusにおける誘導発現タンパク質の解析」

 この研究も,当初の計画が全然うまくいかなかった。しかも,うまくいかない実験になぜか一所懸命取組み,うまく行った方をあまりやりたがらなかったのが不思議だけど,卒論はきれいにできてよかった。成功を目指す秘訣の一つは成功を見極める目。ただ,何がよいかは悩み続けるけどね。早くこのタンパクを同定し,次の高みへ登るよ。

 

「酵母の高温増殖能と酸化ストレスの関係」

 スクリーニングしてあった100株以上の株の酸化ストレス感受性を一つ一つ調べてくれた。ゲノムとは大変な数の仕事。決められないものを決めないままに悩み続けることから次への視野が開けてくる。難しい研究テーマなのだから結論は急がない。悩みを抱える研究テーマなので,まあ,気長にじっくり解き明かそう。一つ一つの結果の地道な積み重ねからある日光が見えてくる。

 

「酵母におけるKin4プロテインキナーゼのゲノムワイド解析」

 一時はどうなるのかと思っていたが,最後までやり通してくれた。プロテインキナーゼをじっくり扱おうと思っているので,一人一人のデータの蓄積がだんだん重要になってくるはず。これでKin4, Prk1, Tpk3のデータが蓄積でき,プロテインキナーゼマップを書き始めるからね。そのマップに自分のスクリーニングした遺伝子達が名を連ねる。

 

「酵母におけるDNA切断修復機構の遺伝学的解析」

 ‘もし与えたテーマをやりたくないと思ったらいつでもやりたくないと私にいいなさい’,と日頃から伝えてあるが,本当に「やりたくない」と言った学生は実は初めて。皆遠慮するものね。でも,そのテーマをやめて新しいテーマを始めるとあっと言う間に大変面白い結果を出してくれた。しかも,当初の別のテーマもちゃんと進めている。本人がやりたくない仕事はやめてみるものだと再認識できた。これが私にとっては大きい。

 

「プラスミドの保持とタンパク質の発現に及ぼすターミネーター配列の効果」

 ターミネーターはあまりうまくいかないという私の感覚を砕いてくれた。きれいな結果が出て,もう少しで今までの結果を一通り矛盾なく説明できるようになると思う。もう少しがもう少しかどうかは知らないけどね。仮説と次に実験は決まっているので,実験結果で示すだけ。答えが吉と出るか凶と出るかは酵母に聞いてください。どちらでも,それはそれ。それがサイエンス。

 

PCRによるセルラーゼ遺伝子と蛍光タンパク質遺伝子の全合成」

 ずっとうまく行かない遺伝子をやらせていたということが最後の頃にわかった。私の与えた計画が悪い例の一つ。こんな後悔が,もっとよく考えろよと教えてくれる。といって,それまでの苦労もたぶん報われると思ってはいる。しかし,なんといってもこの研究結果のポテンシャルは大きい。なんでもうちの研究室で作ってやろうと考え始めている。本当に新しい遺伝子工学となるよ。

 

「出芽酵母におけるアポトーシス誘導タンパク質Baxの解析」

 医学的基礎的な仕事。じっくり取り組まなければ先に行けない。当初の予想ではうまく行かないと思っていた融合遺伝子が機能したことに驚き,適当にスクリーニングした酵母に珍しい変異株がたまたま入っていたことにまた驚いた。それもBax側の変異である。これだから遺伝学はやめられない。たぶん,一人でぼちぼちよちよちと歩いていくような研究になると思う。歩き続ければ高い山にも登れるはず。

 

 

修士論文

 修士の仕事はかなり大きく解説するのが大変なので,一言ずつにしておきます。

 

「酵母の多重遺伝子操作系の開発と形態形成機構の解析」

 ちょっと自慢させてもらえば,2つのかなり異なる大きなテーマを2つともこなしてしまう器用さと優秀さで研究してきた。でも,多重遺伝子破壊では7つも破壊したのにまだ形質がなくならないのは恨めしい結果でした。ある私の思いから次へのテーマを修士途中でお願いしたが,その研究にも大きな進展をもたらしてくれました。新たな概念を作ることがよい研究。よい研究者となりました。

 

Fusion PCRと相同組換えを利用したSaccharomyces cerevisiaeでの組換えDNA構築法の開発

 たまにおかしくなる側面が4年の頃から好きでした。口下手なので発表も下手でしたが,研究結果はいつもきれいで信頼ができ,私の予想に反して,修論は上手に書かれていたのがうれしかった。話すことや発表が評価されることが多い世の中ですが,他の能力は人以上に高いことは少なくとも私は知っています。いっぱい怒りましたが,成長していくのが楽しみとなっていました。この研究で修論発表で自分で伝えた「世界を変える時」を我々が実現させますから。

 

 

 

 

研究室の選び方(昨年と同じです。読み直しても変わらないところ)

 研究室を選ぶということはどういうことでしょうか。それは,私がどういう研究室を作りたいかということに関連します。

 山口大学工学部に研究室を持たせてもらい,多くの学生と過ごして,多くの卒業生が出て,ずっと,何が大事なことなのかと考えてきました。一時期は研究中心であったり,いろんな学生に苦労したり,苦労をかけたり,研究費がなくて途方にくれたりを経験しながら,研究室で何が一番大事なのかと考え続けてきました。結論は,単純でした。学生の皆がこの研究室が楽しいと感じて,仲間を大事にして,正直に本当のことを話して,信頼して,ボケてツッこんで,悩んで,叱って叱られて,そして,卒業してから,ちょっと寄ってみようと思ったり,一言連絡いれたり,慰問に来たり,お酒を送ったり,キャンプに来たり,OB会で騒いだり,と,研究室を核として大事な人の繋がりを作ることがもっとも大事なことだということが結論です。

 研究は手段で,皆が成長しないといけない。成長していくと研究結果がついてきます。やさしそうと感じて慣れてくると,だんだん,厳しいところが分かってきます。叱られない学生はいないと思います。決していつもだらだらと甘く楽しくやっているわけではありません。研究しない人はいらないのです。何かを作りたい,みつけたい,研究をしたいと思った人に厳しく,やさしくなります。言われたことを言われたままにやっても叱られることがあります。先生が言ったからこれをやったと答えた途端に怒られます。研究は甘くない。いい研究をやることがその人を成長させると信じていて,これを疑ったことがありません。

最後に,繰り返しになりますが,この研究室でもっとも自慢したいことは卒業生と今のメンバーです。この仲間に入れてもらっているということに私も感謝しています。