高温エタノール発酵ができる酵母Kluyveromyces marxianusの技と力
山口大学・工学部・赤田倫治
日本ではエタノール車を見かけることはないが,世界ではエタノール燃料はどんどん市場を拡大しつつある。アメリカではトウモロコシからのエタノール生産が急激に上昇し,食糧との競合で批判を浴びてはいるが,巨大な車社会を維持するためにはしかたがないのかもしれない。資源のない日本でどのように将来の液体燃料を供給していくかを真剣に考える必要がある。
発酵産業の盛んな日本において酵母のエタノール発酵の研究は産業界で長く続けられているものの,燃料用エタノールに真剣に取り組んでいるのはつい最近かもしれない。飲料用ではなく,燃料用となると,低コストで巨大な生産量を求める「効率」が重要となる。高温で発酵ができれば冷却コストが削減されるし,酵素反応にも都合がよい。
そこで,耐熱性酵母を探していたら,タイで取得されたKluyveromyces marxianusが驚くほどの能力を持っていた。48℃でも増殖するこの株の高温増殖能力は,他のK.
marxianusのどの株より優秀であり,エタノール発酵においてもブラジルのS. cerevisiae株と遜色がない。高温発酵技術を開拓するに魅力的な酵母である。
それだけではない。遺伝子操作系の開発のためにURA3遺伝子による形質転換系を準備していたところ,S.
cerevisiaeのURA3断片が簡単に,高頻度で,染色体上にランダムに挿入された。S. cerevisiaeの相同組換えが常識の世界で育った私には,非常識な遺伝子操作法となる。こうなると,プラスミドなどいらないので,PCRによる断片作成で,なんでも遺伝子導入できることになる。
まだまだ,酵母は奥が深いと感じさせてくれるK. marxianusの力と技を紹介したい。